(2)夜のヒットスタジオ
22歳で始めたレコーディング・ディレクターという仕事。入社一日目から会社に泊まり込み、徹夜明けのそのままスタジオ・ワーク。楽譜を手に、ドキドキしながら待っていると、ペドロ&カプリシャスのリーダーが来られました。『よろしくお願いします。辻川です。』楽譜を手渡して、レコーディングがスタート。
リーダーが渡された楽譜をポンと譜面台に置き、リラックスした空気の中でチューニングが始まる。僕の書いた楽譜のキーは合ってるんだろうか?トランペットはB♭、アルトサックスはE♭、テナーサックスはB♭、さてフルートは?C??…僕の書いた楽譜は、バックトラックと合ってるんやろか???ドキドキしている間に、TAKE1が始まり、一時間もかからないうちに二曲があがり、ホッとしていると、録音ブースの中から、
『ところで、この楽譜、誰が書いたの?』
間違ったかな!?…『僕が書いたのですが…。』
『すごいネ、君!歌い回しの細かい所まで書いてあって助かったよ。』
うわぁぁ〜、ほめられた!徹夜明け、頭はボーとしていたけど、本当にうれしかった。
その後、フルートをうすくバックトラックにのせて、エンジニアとバランスを取ってOKを頂いた。『お疲れさま。』あっと言う間のレコーディングだったけど、お陰でスタジオワークが好きになるのであった。この日のことから、エンジニアさんからも『辻川くんは仕事がやりやすいよ。』と噂され、上司からも、いろんなアーティストのスタジオワークに、サブディレクターとしてスタジオに入っていいと言われ、そらもう、いろんなスタジオワークに入り込み、仕事をしたのであった。
その夜には、”狩人”(かりゅうど)の担当ヒットメーカーディレクターに誘われ、生の音楽テレビ番組『夜のヒットスタジオ』に立ち会うことになる。夜8時からの生番組だった。『へぇ〜、レコーディング・ディレクターって、スタジオだけの仕事やないんやなあ〜…。』作曲家Tさんとディレクターは、もちろんスーツ、それにブーツ(?)、に外車(?)、ほんでフランス料理(?)。あ〜、芸能界やのう。徹夜明け、頭がぼーっとした夢のまんま、ひとりタクシーに乗って、西永福町のアパートへと帰る僕であった。
(つづく)
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